達成ならず

体育の日の山登り修行は、あと一歩、というところで
いや、二・三歩つーところで断念した。

朝からの雨と、標高1,000M の寒さとで、かなりキツイ修行になった
登山道の無い藪漕ぎではタイムロスが著しく
やっとこさ予定したルートに戻り、最終アタックと思いきや
高巻きの不可能な山崩れに、撤退を余儀なくされる。

沢筋の横断も、脆すぎる肌で高度もある。
唯一、ルートを探せば、尾根まで行って降る方法もあったが
日帰りでは無理と判断。

今回の同行者は
竜太郎とサトケン
体力には問題の無い二人だが、山登りは経験がモノヲイウ
さすがにいざという時のビバークは経験が無いだろうし
二人とも新婚であるからにして、危険は避けたい。

目的は、山頂近くにある 湧水の池
我らは 山上湖 と呼んでいる。
ここに遠い昔、マタギが残した岩魚を見に行く為だ。

アタックするには色々な条件がある。

時期は雪解けしてからの6月後半から禁漁になるまでの間
林道どころか、杣道(そまみち)もついていない藪漕ぎと高巻きの連続
ザイルワークetc...

来年の為のルートの下見と
魚の生体確認

今まで2つ発見し、昔岩魚 がいた。
今回、生体生存の確率は10%位だったが
夢とロマンとでもいうのか、色々な期待を込めてのアタックだった。

マタギが移植放流したと伝えられる岩魚は
猟の時期、真冬の非常食である。
獲物を追って何日もかける時、白一色の世界には食料なんて皆無。
普通は細い沢に岩魚を移し、釣ったり捉えたりして食料にしたという
マタギはこれを 隠し岩魚 と呼ぶ。

山深くにあるフラットなテラスに存在する湧き水の池は絶好の住処であり魚も移動しないから、釣りやすいのだろう。
山上湖は急勾配の中のテラスにあることが多い
故に隔離されている。
流れ込みの上流は岩肌から染み出す水だったりするし
流れ出しのその下はゴルジェ帯が多いから遡ることもできない。
生息する魚体も違う。

それらが我々の釣り意欲の根源である。

でき得る限りの資料を揃え、綿密なルートを練りに練り、
3人は歩き出す。


藪漕ぎを終え開きに出ると休憩...
体から湯気が吹き出る。


高巻きの不可能などんずまり
崖下は地図表記の倍以上の高低さがあった。





竜太郎が 雉撃ち に行った流れ込みの沢の上流から、硫黄の匂いがした。
サトケンと二人で、ずいぶんと臭いのを出す奴だと笑っていたが、
出す前から臭かった と弁解。
なるほど、上流に行くほど硫黄の匂いはきつくなり、
石は赤黒く、魚が住んでいるとは思えない。

そんなこんなで、失敗に終わったが
私のもう一つの目的 体育の日減量作戦 は成功。
3人で笑いながら、ヒーヒー言いながらの山登りは面白かったし
所々に見受けられる一足早い紅葉も綺麗だった。
ガスがかかって山立てしにくかったが
ある意味、この企画の幻想的な面を堪能できた。

我らは来年の為に 一振りの標(しるし) をこの山につけたのだ。
そう、熊の爪痕のように...