睡魔

床屋で角刈りを頼む
いつもの事だが、床屋の親爺は
いつものでイイですね
と、クエスチョンも付かない

まぁ、月 1.5 回のペースでの髪の伸び具合では
角刈りかボーズにするしかない

床屋の室内は、年中居心地の良い室温に保たれている
いつもの事だが、睡魔に襲われる

ウツラウツラ...と眠りこけるに
秋の日の天気の良い渓流
そこにマットを敷き、シュラフにくるまっている午後
その次点にランクされるほどの居心地の良さだ


当然、眠りに落ちる

首が傾く
床屋の親爺 軽く直す
ハッと目が覚める
鏡の中で親爺の口元が笑う
また首が傾く。今度は逆方向だ
親爺 軽く直すが、鏡の口元は角度がちょっと変わる
またまた首が傾く
親爺 ちょっと強めに立て直す。こちらも苦笑い...
首が前に落ちる
親爺 ラリアット気味に...鏡の中では口元の笑みが引き攣った方向に...
不意を喰らったので、首を痛める。

頭を洗う。その最中も意識が遠のき、泡水を鼻から吸いムセル
親爺 たぶん笑っている
シャンプーブラシで痛いほどゴシゴシされる。さすがに目が覚める

鬚をあたる
親爺 話しかける
しどろもどろに答える
親爺 さらに話しかける
どんな問いかけにも「へぇ〜」「ふぅ〜ん」としか答えず、また寝る
親爺 全く会話にならないので、諦める

しびれを切らして親爺のカミさんがでてくる
矢継ぎ早に会話を捲くし立てる
どんな会話にも「うんうん」とだけ答える
カミさん音量とトーンを上げてくる
「うんうん」
最後の耳掃除でカミさんに仇を取られる
完全に覚醒する


こんな攻防を3脚のイスの室内で繰り広げながら
ボクの大好きな時間が過ぎてゆく

しかし、傾き続ける頭を、鋏一本で見事に角刈りに揃えるとは
この親爺 かなりの技の持ち主だ