金太郎鯉


小僧の頃
やっと半人前になれたかという時に
店を替わざるを得ない事情により
自分にとっては不本意な店で3ヶ月ほど働いた

所謂、ツナギの働き口である

その3ヶ月間は、今までの店と違い
就業時間が短かった
15:00‐1:00の10時間
以前は16時間以上だったので、6時間も時間を持て余していた

仕事が終わった午前1時から、酒を飲まぬボクにとっては
何もすることがない

かといって、睡眠時間を増やすにも
身体がいう事を聞かなかった

そこで始めたのが
葉らん切り
鮨屋でバランという緑のギザギザ切り込んだヤツを絵にしたようなものである

笹切り
と呼び、一枚の笹の葉のなかに切り絵をしてゆくのが元
葉らん切りはそれを複雑に、大きくしていったものだそうだ

板に2‐3枚ほど紙を敷き、その上にデッサンを描き
切り出し庖丁という小刀で切り抜きしてゆく

当時切ったのは
藤娘・金太郎鯉・浮世絵・孔雀。七福神・恵比寿様等々...

藤娘は製作時間60時間...
写真の金太郎鯉は10時間だから
気の遠くなるような作業だった

一度に2‐3枚出来るのだが
下に重ねている方は出来が悪くなっている

現在のボクでは
根気も集中力も、時間も無い
若かりし日の
たった3ヶ月の制作活動であった

作ったお粗末な作品は
当時、大切な方々にもらって頂き

残っているのは、この金太郎鯉と
結婚前に女房にあげた藤娘だけになってしまった

藤娘は財布をはたいて、ちゃんとした額に入れたのだが
これは金がなかったので自作し
ガラスも合うのがなかったので、塩ビ版

ハングリーな時代の象徴として
手を加えずにそのまま店の片隅に飾ってある