丑の日は近からず
じねんぼう では天然の鰻を出す。
産卵の為、川から海へ…
日本鰻はそこから赤道直下付近のマラッカ海峡まで
長く遠い旅をする。
なぜか は、いまだ誰もわからない。
産卵の長い旅へ向かう為に、遠浅の海で甲殻類等の餌を摂取する。
それが盆過ぎだ
どばミミズを餌に延縄の仕掛けを這わせる。
何百本の針に どばミミズを付ける。
もう亡くなってしまったけれども、鰻漁をしていた漁師は私にこう言っていた。
いんまぁー草刈りしたっても、刈った草ぁーみなかだすて (かたづけて) すまう。
こないだまで刈った草ぁー、しゃーますて (持て余して) 、そごいらさなげでだんだげっともなぁー (捨てていったのだけれどもなぁ) 。
その草ん下ほっくりがえすとめめずっこや、おどげでねぐ (とんでもない量が) とれだんだげっともなぁー。
みな刈った草もってぐがら、めめずっこはっぱり (全然) とれねっちゃぁ。
あんだ、めめずっことってきてけらいや。
すたら鰻とってくっからっしゃあ。
んだげっとも、こんまいめめずっこではだみだがんね。
どばめめず だげだがんね。
老獪な櫂捌きで船着場を後にした初老の漁師は
近辺では唯一の延縄鰻漁をする最後の漁師だった。
彼の後に延縄を仕掛ける漁師は皆無で
何人か夜突きで鰻を捕る漁師がいるだけだ。
しかたなく ヤスで傷んだ傷物の鰻を買う。
大潮の干潮時の夜。
海水が澄んでいる時のみの漁となる。
カンテラで照らし、箱メガネを咥え、手にヤス。足で櫓を漕ぐ。
捕れる鰻は二の腕の太さ。長さはメーターオーバー。
初老の漁師に
だまされだどおもって喰ってみらいん
と、勧められ作ってみた。
ぶ厚い身と皮。
関東風に焼いて、蒸して、またタレを付けて焼く。
養殖鰻は20〜25分蒸さないと皮が硬い。
同じ時間蒸したら解けてしまうほどになってしまった。
蒸し時間は半分で良い。
ぶ厚い身に箸を入れると、ホクッとした身の
しかしジュウシィーな、肉汁が溢れる。
口に運ぶと、上品且つワイルドな旨味の強い脂が広がる。
大味かと思っっていたが、大間違いだった。
これほど旨い鰻は喰った事が無い。
この鰻のおかげで
丑の日には鰻が喰えない。
養殖の、出荷する前、練り餌に魚油を混ぜ込み無理に脂を乗せた鰻なぞ喰えない。
我慢して、我慢して、天然を喰らう。
ブットイのを喰らう。