親方
18の時初めて勤めた店の親方である。
長年勤め上げた店は
経営者が亡くなり、娘婿が好き放題やって借金のかたに取り上げられてしまい、
次の買い手の経営者に呼ばれはしたものの
居酒屋は嫌だと断り、職探しが始まった。
しかし、いくら腕が良くても50代の親方を雇う店は少ない。
まして、調理師会など鼻にも掛けない一匹狼だったから、伝手も無い。
唯一、潰れたが、勤め上げた店の手放さなかった喫茶店で
ランチの弁当を数年作っていた。
親方が作ったランチを、私は食べにいけなかった。
割烹の仕事が大好きで、誇りを持っていた親方の作る
喫茶店のランチは悲しくて、必ずや旨いのだけれど
悲しくて、食べに行けなかった。
味洛あかし 親方 金子 一美 現在65歳
私の料理人としての根本を創ってくれ、鍛え上げてくれた偉大な親方である。
仕事と精神を叩き込まれた時間は約2年と短かった
その後に弟子を数人持ったが、
私の事を 最後の弟子 と、呼んでくれた。
去年引退した。と、告げられた。
人知れずにである。
なんと悲しいことだろう。
日本食調理師の損失であることに誰も気付かず埋もれてしまった。
ナニが調理師会だ。
ナニが割烹研究会だ。
ナニが...
クヤシクテタマラナイ
親方の目はまだ、料理を作り、弟子を育て
誰にも負けん、と言っているではないか!
親方は私に料理本を持ってきてくれた。
22冊
親方は私に魂の庖丁を持ってきてくれた。
5本
もう、使うこともないから、お前にやる。
職人の中の職人が長年かけて鍛え上げ、研ぎ澄まし、立派な料理を作り上げてきた 魂 を譲り受けた。
カナシクテタマラナイ