魂の道具

厚焼き玉子を焼くのに、家庭用でテフロン加工のしてあるものがよく出回っている。
こびり付かず、そこそこ上手に焼けるから文明とはすごいものだ。

我々板前の使う道具はそれとは違うが、先人の知恵というものが脈々と受け継がれているすばらしい道具だ。
確かに手入れが面倒で、怠るとすぐ料理に現れる。

玉鍋(ぎょくなべ)といわれている厚焼き玉子の鍋は銅製である。
熱伝導性が良く、油が他の金属よりも馴染みが良い様に感じられる。
毎日のメンテナンスが必要だが、私の愛用している玉鍋はもう26年になる。
かなりの年季が入り、所々ひしゃげてはいるが、愛してやまない。

何千何万本という単位で厚焼きを焼いたのだろうか?

木製の取っ手は何べん交換したのだろう…

均一の焼き目はテフロンには出来ないだろう。

常に最高の厚焼き出汁巻き玉子を作ってはいるがこれはという出来がいいのを焼いたときには陶酔してしまったりもする。

焼きたての厚焼きがカウンターの益子焼きの器に鍋からリリースされた時、お客様が思わず注文し、ほおばるときの笑みが何よりのご褒美である。