ネザカナ フントーキ 『嗚咽 オエツ』
でーすけと私は、全 神経を集中させた
空は
冬の鉛色であったし、いまにも降ってきそうだ
仙台の12月と云うと
吹きすさぶ風雪が常なのだが、最近は暖かい
天気予報によると、今日から寒波が来襲
しかし、そんなんでもない
おかしいが、寒いことは寒い
指先が火照っているうちに魚を釣りたい
そう思いながら魚信をきく...
でーすけが離れた所で、ガッツポーズをとっていた
近寄ってみると
待望のボッケが初っ端から!
続き様に良型の ボイジョ!
ベッコウゾイ・タケノコメバルとゆーやつだ
冷え冷えのコンクリートに腹ばいになって撮る
ボッケは 釣られたことが悔しいのか?
はたまた 喉の奥に異物が詰まってオエオエなのか?
約8秒間隔で エズイている...
オエッオエェェ
でーすけは焦っていた
お、おやかたぁ、早くしないと...
ん?なんで?
今、マクロ大会に出展する写真撮ってるんだからぢゃましないでね
い、いや、そいつがね、喰ってしまうんですよ
ん?
だから、そいつが、ワームをね、喰ってしまうんですよ...
ん?
ん?
そうそ、よかったねー、釣れてよかった!
でーすけのワーム、パクって喰ってくれて、よかたねー
い、いや、違うんですってば
そいつがね、ワームをね、喰って...
『そーとーきている』
ボクはそう感じた。
九州出身のでーすけは、根魚奮闘記の取材の過多により
寒さに弱い身体が 限界点を超過したのに違いない...
最近は、充分寒いのに『あたたかいですねー』なんてことも口走っていた
マジメすぎるこの男は 愛読者の為に...
なんと潔い。そして名を残すに値する男だ。
ボクは涙が滲んで
凍結しかかっている液晶モニター
マクロで固定してるのに ブレて映し出されるモニターを凝視し
ボケた写真を数枚撮った
でーすけは強引だった
いつも優しく接してくれるでーすけが
この時ばかりは強引だった
カメラの前、15cmにある被写体を奪い取られた
ボクは唖然とし、ヒエヒエになった腹を持ち上げ
なにすんのん?
まだ撮ってる最中なのにー
なにすんのん!
イ、イヤ、ボッケがね、ワームをね喰うんですわ
やはりだ。
治っていない。
彼の野球生命も、釣り生命も、釣りの名声も お わ り か ・・・
ボクの身体から流れ出す
鼻水よりも、ちょぺっと少ない涙を彼は何と思ったか
なにやってんすかーもー。親方ぁー
ホラ、もう完全に喰っちゃったじゃないすかぁー!
あーあ、もー取れねー!もー...
気付くと、ボッケはでかいワームを飲み込んでしまっている
確か、釣れた時は口に引っかかっていた筈だが?
そう云えば写真を撮り続けている時に...
オエッオエェェってエヅイていたなー
その度に特大のザリガニワームは彼の喉の奥へと
引きずり込まれていったのだった
良く観察してみると
ボッケの口の中には舌のような部分があって
(魚には全部付いているのだが、ボッケは特に面積が広く、しかも鋭利だ)
でかい口を開ける度に、釣鈎のカエシのような歯が
喉の奥へ奥へとワームが吸い込ませてゆくのだった
一度飲まれたワームは、簡単には外せない
ボッケの鋭く、無数にある歯
そのでかい口の中に指を突っ込んで 引きずり出すしかないのだ
でーすけは前回、それで大怪我をしている
指三本に、無数の刺し傷
そこから血を流し、軽い貧血の眩暈を覚えたらしい
あ、大怪我は大袈裟やね...
ま、兎にも角にも魚は揃った
アノ人に喰わせよう
さて、どんな料理にするかなー
ツウビィ コ、コンチ…ネンタル?