鎧
友人が作ったミノーで
友人が釣り上げた魚を料理する
ボクの大好きな時間が訪れた
四国の荒波の
雨降るサラシで釣り上げた
ヒラスズキ
希少で貴重な魚である
なにしろ、岩場で揉まれた波が
白く広がる、サラシ という場所を好むので
釣り人は荒れ狂う寸前
もしくは、荒れ狂った海の治まり加減の時に立ち向かうのだから
船は木の葉のように揺れ
足を舳先にて、踏ん張り
これでもかとキャストを繰り返し
ようやく手にできる魚なのである
脂が適度に乗り、相当な運動量で引きしまった肉質は
頑強な鎧で纏われている
それは
いぶし銀でいて
その硬質さが感じとられる深い輝きを放つ
その鎧を
ボクの庖丁は削ぎ取ってゆく
引き締まった筋肉と鎧
その挟間にある皮膚と鎧の隙間に
いや、
何一つ隙間など無いのだが
皮を傷つけぬ様、鱗を切り離す
鱗をバリバリと、引いても良いのだが
筋肉に負担をかけず
尚且つ、鱗を繋げたまま料理したいので
この手法を選る
鎧は
金に輝いたり
銀に煌いたり
いぶし銀の光を反射したりする
ミノーに襲いかかったこの魚が
白泡の水中から魅せる魚体と、キラメキを想像するだけで
ボクは興奮するのだ
未だ釣り上げた事のないこの魚とのやり取りを思うと
身体中の血が管をすごい勢いで走り
筋肉が隆起し
脂が燃えるのだ