過去への虚ろぎ
しかしソコは...
もう、昔の面影をのぞかせようともしてくれなかった
『ワカッテハ イタノダガ...』
10年ほど前だったろうか
伐採が入り、ボクが愛した渓流は面影さえも留めてはいなかった
いや、伐採の後は回復したかのようにも見えたのだが
実際は かなりのダメージを受けていた
その渓には
後方に とても大きな深淵があった
そう、野球のダイヤモンドが縦に5‐6個連なった大きさだろうか
底が岩盤だった深い淵も
呆れるほど大量な土砂が堆積し、大堰堤まで埋め尽くされていた
原因は明白であった
二山丸ごとの伐採により、山土砂が崩れ 流れ出た結果である
その渓流は以前
大雨の後も水嵩を増さず、坦々と
夏場の渇水時期も渇水せず、坦々と
なにより、とても美しい渓相で、透明すぎる水を湛えていたのだが...
そして、その渓の住人達は
大きな深淵で育まれ、豊満な肉体を持ち
渓に劣らぬ美しさと、そのフォルムを誇っていたかに思われる
深淵が消失してからというもの
その渓 独特の個体を持つ宝石達も、消えて無くなった...
昨年、遠方から友人が訪ね
この渓のヤマメを釣った
それを手に取り、友人が釣った事に
心から喜びを感じたが
一方では、昔の面影の輝きとフォルムが無くなった 姿に涙が出そうになっていた
ボクは落胆し続け、今日に至ったのだが
やはり来るべきではなかったのかもしれない
「もしや...」
と、思った期待も無残に剥ぎ取られ
悪化をたどる一方の姿に、ボクは徒々 虚無を感じ
そこに行ってしまった事を後悔し、人間がしてやった事を懺悔する
この渓流は云わば
ボクの初恋の渓であったのだ
その美しさに見惚れ、身を魅かれ、通い詰めた
事柄が美しい程、再会を後悔に貶め
なにげない顔をしているかの様な 気丈な渓に心を締め付けられる
再会...
ボクにとって、初恋の相手に再会する事は、不安と期待が入り混じる行為で
予測していた不安はやはり、期待を踏みにじる
探せば探すほど
もう、あの頃のワタシでは なくてよ
と、あっさり言ってのける
渓の傍らには 空木の花が咲き連ねていた
空木 (ウツギ)
木が空洞になっていることから、この字があてがわれる
空ろ木 (虚ろぎ・うつろぎ) からきているとも...
花言葉は「謙虚」
この文を書いてから知った...