遭難願望顛末記 カヌー海の章・其の弐
さて、ミナモに浮かんだカナディアンに乗り込む
パドル(櫂、かい)を水面に差し込み漕ぎ出す
水面を僅かに割って滑るように進む
ガンネル(舟べり)から手を下せば、すぐ海水に触れる
目線が水面に近いので、一層速く感じる
では、男の無骨なアウトリガーを出してみよう
翼をおろし、鉄筋を差し込み両翼を固定する
片方に体重を掛けてみると
ギシィといいながらもフロートのチューブは沈まない
二人分の体重を掛けてみる
ギシィィィといいながらチューブは半分ほど沈む
安全だ!
これはかなり安全だ!
体重を中心に戻してバランスを取る
両翼のフローターは海面から10cmほど離れ
漕ぎ出してみても海面にはほとんど触れない
成功だ!
これはかなり成功だ!
パドルを刺して止めると、舟は方向を変える
その時フローターも水面に着いてより負荷がかかり回転しやすくなる
片方のアウトリガーを跳ね上げて
牡蛎の養殖棚の大玉浮に近寄り、ロープをもやう
完璧だ!
これはかなり完璧な安定性を保持している!
早速、釣り糸を垂れる
仕掛けを組んでいる時
二人とも笑いがこみあげてくる
お金を掛けて、舟を仕立てて来るしかなかった場所に
貧乏な二人が 自力で来ているのだ
笑いは口元から声になり、大笑いになる
笑いすぎてエイトノット(釣りの糸結びの基本、8の字結び)が結べない
釣りが目的なのに
釣りをする前から満たされる感覚とはこういうものだ
が、
桃の浦…魚はあまり釣れない
ニタつきながら竿をおろしていると
ちぃこいアタリ(魚信)が伝わる
大物しか頭にない釣り人の仕掛けは、鈎も大きい
故に小物は掛らぬ
そ、それでいいのだ
無骨な男は大物しか狙わないのだ
そう云い聞かせて釣り糸を垂れる
ちぃこいアタリでも、ときたま掛る事がある
大きな鈎に、ちぃこい魚がたまたま掛る事がある
プルプルいいながら水深30mから釣り上がったのは
20cmのハゼ
無骨を装っている男達は大喜びする
歓喜する
おぉ!
とか
い〜っやったぁ!
やら
うひゃひゃらら〜
などと大騒ぎして20cmのハゼをアゲ奉ル
桃の浦…魚はあまり釣れない
推進式にも使わなかった缶ビールで祝杯を挙げる
アウトリガーの蝶番と、梯子の脱着クランプがギィギィいってる
コレで今日の釣りは完結した
完璧なる有終の美を飾った
しかし、天は我々にさらなる褒美をくれた
またしても釣り竿の穂先にちぃこいアタリが...
無骨な男の鈎は大きいので
しっかり喰い込むまで待つ
焦らずに待つ
もう完結している心があるので
至って焦らずに待つ
アタリが無くなった...
ま、いたしかたない
しかし、ゆっくり竿を訊き上げてみる
ごごごごごごん!
さ、さかなだぁ〜
安竿のコンパクトロッドが水面に突き刺さる
ドラグ(魚の強い引き込みがあった時、糸切れを防ぐため、糸がスムーズに出てゆく機能)が鳴る...
鳴る?鳴らない!!
リ、リールも安物だった!
しまった...
桃の浦…魚はあまり釣れない
を、甘く見ていたぁ!
激しい引き込みをナントカいなした後
ゆっくりリールを巻く
ここで横に走られたら、牡蛎棚に入られ
牡蛎の殻でテンションの掛った糸など
PEライン(ヱライ強い釣り糸)でも一瞬で切られてしまう
棚と反対方向に誘導するが
体重が片方に掛りすぎ、カヌーはかなりナナメっている
アウトリガーもギシギシいってる
水深15m位のところで魚体が透きとおった群青の中に見てとれる
座布団だ
座布団カレイだ!
ゆっくり旋回してあがってくる
ロッドは相変わらず水面に突き刺さりっぱなしだ
こんなコトもあろうかと(ホントか?)
ネットは用意してきたのだ
柄の長い伸縮式のネットだが
縮まっている状態でも長い
急いでネットを出そうとするが
アウトリガーの梯子に引っ掛かって、うまく出せない
船上は大騒ぎである
あぎゃー!また突っ込みだー
折れるぅ〜
ウギィー!ネットが、ネットがぁー
二人とも焦っているのにもかかわらず
口元は笑っている
あとちょっとだ!
もちょっとであがるぅ〜
まてって、ネットが、ネットがぁー
うんギィーヒヒッ
うひぇえぇえぇらら〜
ぐひゃははっははー
やっとネットが水面に入れられる体制になった
ギギィギギッ
アウトリガーが悲鳴を上げる
太っちょ二人分+タモ網+座布団カレイの重さと引きが
片翼に掛っているのだ
このままぶっ壊れて沈(チン:舟が転覆し、沈む事)してもかまわぬ
このカレイをタモ網にネットインしなければならぬ
たとえネットに入らなくても
この行為は止めてはならぬのだ
沈したってかまわない
ぶっ壊れてもかまわない
オレらは無骨なんだ
荒々しく粗いんだ
太っちょだけど骨張っているんだ!
また長くなってしまったので
また来週