白子蕎麦と Tom Waits
朝飯抜きで市場へと向かう...
どうも、コンビニのおにぎりや菓子パンは喰う気になれぬので
市場の食堂で
とも、思ったのだが、
それも喰う気になれず
鮪屋で 淹れたての珈琲を啜り、
漁師の浜鍋で お裾わけのワカメ汁を啜り、帰る。
店に着いたら、メシを喰おう
車の中には、ソレだけを考えている自分がいた
ハッチバックを開けて荷物を運び入れると
どっさり買った魚介は厨房の中央に積み重ねられ
これから始まる<仕込み>の
ソレを捌かねばならぬ<組み立て>へと
アタマの中は切り替わっていた
仕込みのスピード調整を計算しつつ手早く、
段取り良く、進めていた筈だった...
追いやられてしまった空腹感を取り戻したのは
午後を大きく回ってしまった時分で
予定していた時間制限を通り越している
お、
おかしい...
こんな筈でわ...
そういえば
店の中の時間はゆったりと流れているように感じる
時空の歪か!?
いや、
そんなこたぁ、ある筈がない
オレがボケてるのか
はたまた、
仕事を捌く手が遅くなっちまったのか!?
いや、
集中していたハズだ
ふと、そんなコトを考えるていると
PCから<Tom Waits>が流れているコトに気付く...
仕込みの時間と、PCに向き合っている時間のほとんどは
音が流れている
流れているのは何時もきまって
ブルースか、長年聴き抜いたロック。
フム。
どうも、コイツのブルースに
オレの時間がマインドコントロールされているらしい
本来なら、
いや、
歌詞の意味などわからぬのだが
ゆったり落ちてくる
雨の夜に
聴き入るべき音なのだろう...
そんな時間が流れている店内は
仕込みの速度を遅らせるに充分な空間になっちまっている
フムむのむー
ま、
こんなのも、たまにゃイイか...
ゆっくり休憩を取りつつ
まかないはパスタでも作って
昨夜 抜栓した、赤ワインの底の少しを飲みながら...
それほどでもなくなった食欲を引きずって
鍋にお湯をかけると、
仕込みの途中の俎板に
河豚の白子が転がっているのが目に入ってきた
そうか、
今年はこの種の河豚が白子を持つのが早いな...
春彼岸までまだ間があるのに、
それなりに大きくなって、旨そうにコロンとなった白子を手に取る
フム、
蕎麦にしよう
白子を見たとたん
蕎麦に変更するのも
傍から見りゃ、可笑しなハナシだ
しかし、
白子を使うパスタは
パスタの塩に負けて、白子本来の
淡い旨さが際立たぬのだ
トマトソースでも、クリームソースでも
オイルソースでも...
その点、
和蕎麦の出汁は、その淡さを十二分に引き立ててくれる
口の中で融けるように旨味を拡散しつつ
味蕾に纏わり付き、喉を熱くして落ちてゆく...
ウムむのむー
独りで喰うには、惜しいまかないだ
彼岸河豚の白子には僅かながら<微毒>があり、
大量に摂取すると中毒症状を起こす
然るに、店売りはしない。
ボクはフグ毒の抗体ができているので
だいじょぶであるのだ(uso)
いや、
しかし、
こんな料理を
飲食店のブログに載せたらいかんな〜
はんせい、はんせい。