引退



前にも何処かで書いたと思うが
ボクの持っている庖丁のほとんどは

<譲り受けた>ものである。



修業時代、
親方や、先輩から頂いた庖丁である

ボクも、弟子や
気に入った後輩には
離れるタイミングで贈ったものであるが

頂いた庖丁も
くれてやった庖丁も
新品のものなど無い

全て、買った本人が、何年も掛けて
使い込んだ庖丁である


コレの意味する処は其々で
其々なりに深い処にある





和庖丁と云うのは
その殆どが、片刃で
裏は凹面になっている

刃付き裏と、峰しか砥石が当たらぬようになってい、
それが切れ味にもなっている

それが磨り減り、無くなってくると
切れ味が持続しない庖丁になってしまうのだ


コレは元々、七寸五分の出刃で
中央に黒ずんで映っているトコロが
<裏>
の、残りで

ほぼ無いに等しいが
こうなると
いくら研いでも使っているうちに
切れ味が落ちてくるのが早くなってしまう


コレは表面で
刃元はボクの独特の砥ぎ方で
鰻の割き庖丁の様に<二段刃>になっている
砥ぎ方も独特で
こんな刃の付け方をしている人は見かけない



柄の部分は
出刃は2-3回、柳は1回
取り換えている


コレは柳刃で
もう、刻印が半分ほど消えてしまっている
出刃と同じく、裏が無くなりつつあるので
これも引退させる

そこで、
磨り減った庖丁を引退させるべく
額に飾るコトにした


ボクとしては
この様に、使い終えた持ち物を
晒す趣味はあまり無いのだけれども

二本とも先輩に譲り受け
先輩が使い、
ボクが継いで使い、

二代限りの、
二人の職人の
使い切った証として晒す事にした




板前職人の魂である

と、
思い

若い頃、こんなのを刻んだ
若かったが故に...

思い入れも激しかったのであろうと
振り返ると

そんな気がした...