焚火宴会人がゆく・初恋編Ⅲ
それでも入渓地点より上流に行くと釣れはじめた。
9割はヤマメで、体長のそれより引きが強い。
足元まで寄ってからまた走る。
タモに入れると、ムチムチボディで鰭がデカイ。
ある程度の大きさからは、背っぱりで体高がある。
何より今までに見たどのヤマメよりも美しいし元気だ。
師は当時でも誰も使わなくなった魚籠を愛用していた。
それはブリキでできた深さ15cm、直径40cmの缶に
口が15cmの輪になって、網が張ってある。
缶に水を入れるとかなり重くなり、携帯するにも、魚を入れて持ち運ぶにも 便利 とはいいがたい魚籠だった。
しかし大きい為、渓魚にはダメージが少なく、師はこれを優先していた。
魚籠の中には常に魚が5尾以上入る事は無く
優々とはいかないまでも渓魚は泳げていた。
先ず5尾以上釣り上げると、中の小さいのを放す。
これを繰り返しその日のbest5を揃えていくが、
キャンプの時は15cm程の小ぶりなイワナが
5尾の中に1尾いた。
渓流の水は清く、鮮烈に私達を迎えてくれ、
山の幸 山菜 も分け与えてくれた。
そこには植林した杉も無く、自然林だけが持つ豊かさと包容力があった。
釣りをある程度満喫するとテン場を探す。
川沿いの小高くなっている8畳ほどのフラットな丘に決め
テントを張る。
焚き木を拾い集め、背もたれの石を運び、ランタンを吊るす。
重い思いをしてザックに詰めてきた缶ビールを冷清流に浸す
薪に火を入れ、暖を取る。
すぐ隣には熊笹の上にずっしりと圧し掛かった残雪が冷気を漂わせている。
残雪には 野生の七面鳥 が刺さった。
カスタムナイフで魚を捌き、根曲がり竹で作った串を刺す。
落ちついた良い火の回りに立て掛ける
焼けるまで1.5時間かけるのだ。そうすると格別に旨くなる。
師と先ほど足元をすり抜けていった35cmオーバーのヤマメの美しさを語りながら宴が始まった。