焚火宴会人がゆく 桃源郷編 Ⅲ

師、仙庵は ノーザイル主義 であり、私もそれに倣う
ザイルを使わないのは
ザイルが必要な箇所は、無理せず 高巻きや 泳ぎで遡行する為
ザイルの用途は危険な場所をザイルによって突破する という使い道が多い
それをしないことによって、安全性の高い遠回りをするためと
危険な箇所は 潔くあきらめる ためだ
もちろん、遠回りがより安全かどうかはしっかり判断しなければならないのだが…

ノーザイルといっても、50mほどのザイルはザックに準備している
いざ という時の危険回避用に…

それまで師との釣行でザイルを使った試しがない
しかし、今回は使うことを余儀なくされることだろう

それほどキツイ谿であることを この地図は物語っている
念入りな釣行計画を進めてはいるが、それだけで手に汗をかいてくる
不安と恐怖が入り混じり、計画段階でかなりの緊張感だ
それを上回る期待感

通いなれた渓流の源頭…ミナモトだ
未だ見ぬ 桃源郷 に胸は膨らみ、心が逸る

渓を鉛筆で溯りながら テン場 を探す
テントを張り、泊まる場所。
ベースキャンプにし、そこから上流にアタックする

川沿いで、等高線の間隔が広い箇所
急な増水がきても避難できる場所
フラットに近く寝心地が良さそうな…
第三候補まで挙げる

問題は、上流部へのアタックだ
何処まで行けるものか検討すると
テン場の3km上流で流れは二股になる
地図から憶測すると、水量は二分しているようだ
さて、ここをどうするか?
地図上では程なく源頭に達する…

何度か釣行計画を練り
必要な物のリストを作り
前々日の夜更けに二人でザックに詰め込む
リスト漏れは無いか?
何度もチェックし 時を待つ

源流釣行はザックをいくらかでも軽くすることから始まる
最小限の食料と調味料
薄手で保温性の高い衣類
コンパクトバーナーにランタン
シュラカップ1つで飲み物、飯、汁、を済ます
それでも二人の60ℓザックはパンパンになり
20kg近いのを背負わなくてはならない
何が重いかは明白だ
飲み物
である。

度数の高いアルコールを持って行く
が、欠かせないのは ビール だ
コレのせいでザックは肩にクイコミ、足元をよろけさせる

源流釣行当日

夜明け前に車止めに到着
重い筈のザックは身体にフィットしているせいか、たいして気にならない
見慣れた渓をとばして源流域に一気に突入する
途中、気を引く淵や落ち込みのポイントがあっても 竿は出さない

3.5時間後…ここから先は未踏だ
慎重にポイントを見極めながらアプローチし
魚信を手探りする
何箇所か挙げたうちの、最下流の テン場が地図上で近づく
ちょっと開けた河原は砂地であった

そこには人間以外の動物の足跡しかなかった
それを確認した時、師弟は顔を見合わせ
緊張しながらも笑みをこぼす

ここから先は前人未踏なわけではまったく無いが
少なくても1週間以上降らなかった雨の
その時からは、ヒトが入ってはいないのだ

魚信はすぐに来た
ここぞ というポイントからはもちろん
小さなポイントからも立派なイワナが飛びついてくる
スレてはいない