焚火宴会人がゆく 桃源郷編 Ⅴ
ちょいと危険だが、二手に分かれてみる
1時間後に待ち合わせを約束し、アタックする
溯って行くと、すぐに長い廊下帯
水際から1mの高さに10cm幅のテラスが続いていた
三点支立ぜずとも行けそうだったので
片手に竿を持ったままへつる
テラスがちょっと広い場所で、しっかり身体をホールドさせたまま
危険な釣りを試みる
こんな良い渓相の長トロ瀬なのに 魚信はない
緩やかなカーブを描く廊下帯に足を進めてゆくと
右岸から水が噴出している
一瞬目を疑うような 廊下帯の中のフォールであった
滝の落差は3m
しかし、廊下帯はその先にも続いていた
??? 滝から落ちてくる水量は、この沢の水量と同じ水量に見えるが…
運よく、右岸をへずっていたので
とりあえず、滝の落ち口にすがり付き5mの直登
登りきるとそこには!
なんと大きな 大淵 があった
広さは20畳位か?
水深は…底が見えない…
その大淵に落ち込むのは8mの滝
二段のフォールである
素晴らしい。
素晴らしいとしか言いようのない迫力と、豪快さと、神秘
しばらくは圧倒されていたが、竿を出してみる
しかし
水生昆虫を付けた仕掛けを、何度繰り返し流しても
手を変え品を変えても魚信は返ってこなかった
どうにも探りきれない大淵を高巻くことは出来たけれども
師との約束の時間が迫ってきている
時間内に戻らなければ、先に戻った方が 探しに後を追うことになっていた
帰り際に、下の廊下帯が何処まで続いているのか、上から覗いてみたが
視界には納まりきれない程続いていた
出合いに着くと、仙庵師匠は
今着いたとこや
どないだった?
私は今、目のあたりにした素晴らしい自然の造形を話すと
師も、すぐに滝にぶち当たり、引き返してきたという
しかし
魚はぎょうさんいるでぇ
この一言で、明日のアタックは決まった
ベースキャンプに着くまでの区間を、食料調達に当てた
荷物を少なくするために、食料は
米・ニンニク・油・調味料各種、しか持って来てはいない
イワナが貴重な蛋白源である
たった一日の泊まりで 貴重な蛋白源 というのもおかしなものだが
山奥に入り込むと、こういう事を言ってみたくなるのである
6月といっても山頂付近の春は遅い
山菜もまだたくさん残っている
ちょっと育ちすぎた タラの芽や コシアブラ
根曲がり筍・ハリギリ・コゴミ…
いつの間にか 布製の簡易バックは一杯になっていた
人が入っていないせいか
沢沿いから肉眼で見える範囲だけでも充分な量だった
テン場に着くと、辺りは夕方の色に変わりはじめる準備をしているかのようだ
急いでその日使う分の焚き木を集め、河原に簡易 かまど を作る
かまど といっても石で囲んだりはしない
高さのある平たい石を2つ使うだけである
この石の間に、火がついて、勢い良く燃える焚き木と
熾きになった焚き木を入れる
その上にコッヘルを乗せる
石は予め焚火で熱しておくと、保温性が高く、電磁調理台のような役目も果たす
日が暮れる前から熾した焚火では
黒文字の木で串刺した 堂々たる尺上のイワナが
塩を振られ、強火の遠火で焼かれ
平たい石の上のコッヘルの中では
根曲がり筍メインの山菜の味噌汁
フライパンの上ではコゴミとタラの芽が炒められ
豆板醤での味付けを待っている
ここまで準備すれば
後はもう、腹いっぱい飯を喰って、酒を飲み
笑って眠りにつくだけだ
今日はじめて見た源流域
二人にとっては まさしく【桃源郷】であった
釣り上げた岩魚の比較的小ぶりなのが焼けてきた
師はその小ぶりのイワナを丁寧に、丁寧に反しながら
飴色を付けていた