焚火宴会人がゆく・シーカヤック編Ⅴ

酒は各種類が飲み干され、赤ワインに変わり、2本目と突入。
と、いっても1本目は渋くて飲めた代物ではなかったので瓶の肩口までしか減らず、干されていた。
獲物も喰い飽きてきた頃
謎のベトナム人とイギリスぼんくらボンボンが
スペシャルメニューを出せ。ホラ作れと言いはじめた。


最低限の調味料と食材しか持ち込んでいない。
サモアの漁師風はオッパイの下のツキノワグマのチャームポイントを
腕組みしながら隠し、しばしテーブルの上の使えそうな食い物やらを物色しはじめた。
おもむろにフッ素加工のフライパンを手にし、アワビをぶち込んだ
なにしろシオ・コショウも無い。小麦粉はゼヒ欲しかったがあるはずもない。
両面を軽く焼き、そこへまずくて、さすがのノンベェも手を出さなかった赤ワインをトクトク注ぎ入れ、フランベ。
中ほどに煮詰めたら、ワタ(キモ)を投入。
流木を削って作ったフォークで潰しながら一体化させてゆき、仕上げに食いかけのブルーチーズを溶かし入れて乳化させていく。

職人らしく、味見もせずに『ホレ、喰え!』と差し出すと、謎のベトナム人とイギリスぼんくらボンボンはフライパンのまま、これまた流木でできた箸を入れる。
こんな単純な料理…(限られた調味料では味見などせずともかなり細いところまでの味はわかる…はずだった)
サモアの漁師風の予想に反して
腹一杯の謎のベトナム人とイギリスぼんくらボンボンのリアクションは大きかった。
3人のこの料理の評価はまったく同じだった。
今日一番の皿。ではなく、フライパン。
あのまずいワインが見事に化けた。
いや、ワタとブルーチーズが化けさせたのか?
瞬く間にアワビはなくなり
どうせ飲まないからと多量にぶち込んだせいで赤ワインソースは乳化の状態を保ったままで、トロトロ…トトロトロ…と何かを待っている。

朝飯に作ってきた生ハム・スモークサーモンのサワークリームサンドウイッチのバゲットの喰いカスが…
まさにうってつけであった。
3人はバゲットの喰いカスを奪い合い、腹に収めた。