焚火宴会人がゆく・シーカヤック編Ⅵ
カヤックを漕ぎ出し、潮流にまかせウトウトしながら流されて放浪感を味わったり、ヤスで海藻の影の岩の裏に隠れているアイナメなど突く。
沖に泳いで行くと海底を見るのが怖くなる。
透明度の高さゆえ海底に引き込まれそうになる。
浅場に慌てて戻り、岩礁の横で群れを成している海タナゴの稚魚達と戯れ、泳ぐのに疲れると焚火に集まり暖をとる。
もうすぐ日が暮れるという時、日本海側だったら良いのにと思いつつ帰り支度をする。
他2名はまだウダウダして帰ろうとはしない。
それもそうだ、皆ずっとここにいたいのである。
喧騒を離れせっかくの癒しの時をそうそう離れられない。
それに焚火はやはり夜に限る。
赤々・ちろちろ・パチパチと…
しかしだ、ナイトクルージングはカヤックにとってとても危険だ。
満月の夜ならば帰れるけれども、
満月は大潮でもある。
この幻のビーチは大潮の満潮時には消える。
この日はまさにその日。
昼頃の満潮時は荷物をまとめ3人で艇を出していた。
イギリスぼんくらボンボンは船酔いと戦いながら上陸を試みていたが
断崖絶壁ばかりで断念。
それでも酒酔いのせいかあまり気分は悪くならず、鼻歌なぞもらしていた。
6時間毎の潮の満ち干きは大潮の場合1日に2度ビーチを消す。
夜の撤収は大変なので
しかたがなく名残を惜しんでパドルを入れることにした。
案の定車が止めてある漁港に着いた時は日も暮れ、水銀灯の下でファルトボートを畳んだ。
キャリアの上の太陽光で暖めていたポリ缶の水をかぶり、綺麗な海を後にする。
焚火をしたという痕跡は潮が満ちれば消えるだろう。
しかし、仕事と日常生活のどうしようもない慌ただしさの中で
『あぁ…』と溜め息を漏らす時
我々の頭の中で癒しのアドレナリンを
この日の海は分泌してくれるだろう。