焚火宴会人がゆく・誕生編Ⅱ

塀から顔を出し中の様子を窺うと、ガン平ジジイは縁側に座ったままで碁盤を睨んでいるのか、居眠りしているのか、子供の目には判断がつかなかったが、恐れを知らない悪ガキ3人組は行動に移った。

美味そうに実った柿をシャツの中に突っ込み、1個を咥えたところで
物凄い怒鳴り声が響きわたった。

上から順に崩れていき3人ともシリモチをつき腰を抜かし、状況を把握し逃走するまでの時間にガン平ジジイは裏木戸を出、私の襟首を掴んでしまった。

2人は無事逃げおおせたが、私は塀の中にそのまま引きずられ捕らわれの身になってしまった。
ガン平ジジイは縁側まで私を引きずると、立たせ睨みつけ、骨ばった手でゲンコをくれた。
今まで捕まった事がないだけに、ショックが大きく泣くことさえ忘れていた。

何処の倅かも知っている様子で、逃げても無駄だと知り観念したら、竹ぼうきを渡され
庭の落ち葉掃除をさせられた。
掃き終わると縁側に座らされ、羊羹を食えと差し出された。
それは今までに見たことのない色をした羊羹で、真っ黒だった。
おそるおそるかじってみるととても美味い。
捕らわれの身ながらおかわりをすると、ゴマだと言いながらガン平ジジイはずいぶんと大きく切り分けてくれた。

ガン平ジジイは山になった落ち葉の中にさつま芋をねじ込み、トラのマークのマッチを私に渡し、火をつけろ と、うながした。
何かに火をつけるという行動は初めてで、煙を出しながら赤い火が移っていく様をドキドキしながら見つめていた。
ガン平ジジイが枯れ枝で火を突くと魔法の様に火はたくましく登っていく。

火が落ちつきしばらくすると、枯れ枝の先に刺さった焼き芋を手渡され
二人でフウフウいいながら焼きたての芋にかじりついていると、
まるで昔っからの友人のように目を合わせ ニヤリ と笑い合った。

ゴマ羊羹と焼き芋で腹が膨れ、ドヤサレ、半べそかいた事など忘れて
私は古い友人の年寄りと話し続けた。
内容は全て焚火の事だった。

枯れ枝で突いたら何故火が強くなるのか?
子供がマッチを持ってはホントはいけないのか?
ガン平ジジイは淡々と、そして根本から机に向かう事などめったにない悪ガキにもわかるように教えてくれた。

私はあの、一瞬でめらめらとあがる炎の不思議さとたくましさ、心が温まる暖かさ、綺麗に全て焼き払った後の痕跡の美しさに魅了され
自分が最初に火をつけたという感動に浸っていた。

焚火で食い物が作り出せる事、それに子供の心は無関心になれるはずもない

ガン平ジジイにさよならを言い、帰る時
坊主、持ってけ と盗みに失敗した柿を持たされた。
柿をシャツの中にねじ込みながら
坊主、又来い と頭を押さえつけられた。
この意味はなんだろう?できの悪い頭で
又遊びに来い という意味なのか、
はたまた
もう一度チャンスをやるから柿を盗ってみろ
という懐の深さなのか?

私は一度首を捻ったのだが、そんな事はもう、どうでもいい
この家に来るならゴマ羊羹と焚火だ

ガン平ジジイに礼を言い、次に来るまで落ち葉はそのままにと約束させ帰った。

家に戻って珍しく手漕ぎ式の井戸ポンプで風呂の水汲みをした。
焚き付けを自分でするためにだ。