焚火宴会人がゆく・初恋編

真っ白だった山脈の山肌が徐々に本来の色をあちらこちらに見せ始めた頃
渓流釣りの解禁だ。
日中暖かくなってくると雪代(ユキシロ)と呼ばれる雪解け水が出てくる。
これが出てくるとたいていの場合水温が急激に下がり、渓魚の活性化は望めない。
特にルアー釣りはかなり厳しいものがあるので、もちょっと暖かくなってからのスタートだ。
山桜のショッキングピンクが萌黄色の斜面に良く映え
やがて藤の花が咲くと
渓魚達は1年で一番元気になってくる。
体高の高く太ったヤマメを求め、足しげく渓に通う。
なにせ、この時期のヤマメはとても美味なので、fish&eatだ。

春といっても東北の山はまだ朝晩は寒く、キャンプには早いのだが
コンディションの良い渓魚をより美味しく喰らおうと2人組の渓バカ達が鼻を膨らませ渓に起った。

山の中腹からはまだ雪が多いので、人里からちょっと上流域を釣る。
キャンプといえば源流域ばかりに桃源郷を求めていたのだが、今回は中流域だ。
女性的な渓の中に男性的な渓相をのぞかせるエリアを遡る

その渓は奥羽山脈を源に、その自然林に護られながら
大雨でも濁って大増水することもなく
夏の日照りで渇水することもなく
年中一定の綺麗な水を淡々と、ただ淡々と流し続けていてくれた。

この日の2人は釣りの師弟関係で師の釣号は仙庵といった。
仙人の住む庵(いおり)。山をこよなく愛し、決して守銭奴ではなく、できれば霞を食って渓魚と戯れながら…という意味らしい。

弟子はその思想を受け継ぎ、自然を愛し、渓魚を敬愛した。
山魚女・岩魚・鮎。他にも美味い渓魚はあるが、私にとってこの三種は特別なものだ
それぞれ個性があり、例えば同じ塩焼きでも最大限の旨さを引き出す方法は違う。

ヤマメとイワナは焚火に限る。
広葉樹の流木や枯れ枝で焚火を熾し、火が落ちついて熾きになりかけた時串に刺した魚を立て掛ける。
この時、ヤマメは火の近くに、イワナはちょっと引いて炙り焼く。
ヤマメの身質は強火で焼く事で水分を損なわずに旨みを閉じ込め、柔らかく仕上げる事で最大限の旨さをだす。
イワナは干物の持つ旨さを醸し出す身質で、1.5時間ほどかけ、じっくり焼くと串上部の半身の水分が飛び、串下部は全体の脂が頭の付け根辺りに染み渡り凝縮された旨みを堪能できる。
どちらも焚火の際の広葉樹の出す煙との相性が良い。魚の真下に桜の太枝を置き、その煙で燻し色に仕上げれば完璧だ。
以前、炭火で焼いたヤマメとイワナを食べながら
焚火で焼いたのを思い出し
何故こうも味が違うのか不思議だった。
屋外で食す事のそれなのかとも思ったのだが、
それにしても味が違いすぎる

鮎は焚火で燻されると不味くなる
それだけ繊細な魚なのか
香魚と書くくらいなので、炭火が一番合っている。
焼け上がってくると自身の脂が赤々と熾きた炭に落ち、
ジュッと煙がのぼり、その煙で良い味と香りが相乗される。

今回の釣行は健康優良児のヤマメを焚火で焼きながら喰らおう
という計画だ。